都市とつながる内装計画
内装だけで環境とダイレクトにつながる方法論とその実践。
JR岡崎駅前の木造テナントモール「駅西小町」の一角にある店舗の内装。構造、外装はさわれないという、いつもとは真逆のレギュレーションを前向きに捉えました。
テナントモールは駅から歩いて30秒、線路のすぐ脇に位置しています。
木造平屋というテナント建物としては珍しい形式で、そのため周辺環境との距離が近く、駅に急ぐ人々の往来やホームとの絶妙な距離感、フェンス・線路・プラットフォーム・跨線橋といった鉄道工作物への近さが他にはない環境を形成しています。
既存躯体は切妻の木造平屋で、昇り梁どうしの頂点を金物でつなぐシンプルな架構を並べた形です。6mの切妻架構を並べたおよそ6m×12mの区画となっており、木造でありながら大きな無柱空間を実現しています。この木架構をできるだけ生かして表しとすることも要件となっていました。
既存建物の内部に展開するダイナミックな架構の傍ら、外観については外壁はガルバリウム角波、開口部は木造用サッシの反復といった住宅スケールの要素でつくられており、これらを店舗らしい構えに読み替える必要がありました。
内と外のスケール感が逆転しているとも言えましたが、規約は規約。ドア一枚取り替えるのもNG。外装に手を加えない規約を尊守しながら、ファサードを設けず内装だけで街に対する店舗の広がりを生み出すために何をしたら良いかを考えました。
ここでは大きく二つのアプローチを用いています。
1.空間的仕掛け:店舗空間の外部化
空間的な仕掛けとして、区画の一部を大きく外部化しています。
客席の1/4程度をテラスとし、都市と客席との間に緩衝空間を設けることで、店舗へのアプローチをコントロールする余地を生み出し、客席のバリエーションと駅前空間の居場所を増やしました。外部化に伴い、反復する住宅用サッシの建具は外して抽象的な開口部へと還元し、のれん用ということでギリギリ許可されたスチールのバーを一本通しました。バーは高さの異なる開口部を整理する役割を担っています。
2.意匠的仕掛け:風景の内部化
亜鉛鉄板、セメント板、銅板など、窓の外に広がるコンクリートのプラットフォーム、線路、上にまたがる鉄骨の跨線橋や線路といった鉄道特有の風景と呼応するような素材を内側に点在させています。内装面材のようないわゆる二次製品は使わず、モルタル・亜鉛鉄板・セメント板・銅板・左官・合板など、多様な一次素材を用いることで、「環境の断片としての内装」が立ち表れてくることを期待しています。
メインカウンターは、ロータイプかつキッチンとフラットにしたいというクライアントの要望を受けて、長さ6m、奥行き1.1mの大きなローカウンターをメインに据えました。
クライアントはワイン・日本酒の目利きでもあり、それを反映してワインセラーならぬ「ワインルーム」を設けています。ワインルームの広さは2.5畳程度、ゲストが中に入ってワインを選ぶことができる広さで、庫内温度は常時12〜13度程度をキープしています。ディスプレイを兼ねた木フレーム+ガラス張りの小部屋で、銅板張りの扉が目印です。
外部化と内部化、二つのアプローチによって、駅前の環境とつながりつつ、メインの提供内容である創作スパイス料理のような多国籍で雑多な大らかさや居心地の良さを生み出せないかと考えました。
PJ名:ENCとしば太
種別:内装
主要用途:飲食店
床面積:約70m2
設計期間:2023.11〜2024.4
工事期間:2024.5〜2024.6
竣工年:2024.7月
所在地:愛知県岡崎市 JR岡崎駅前「駅西小町」内
構造:木造
施工:株式会社 OND