アフターコロナの家にはどんな便利機能より土間・軒・縁側が欲しい
コロナ禍をきっかけに住宅のあり方が変わり始めています。長時間通勤を前提とした郊外居住ー都心勤務モデルの限界は以前から言われていましたが、2010年代以降主流な傾向と思われていた都心居住ー都心勤務モデルがコロナの影響で細り、首都圏から近隣県への転出がメジャーな現象になりました。
2010年代以降のコンパクトシティ化の流れが一気に逆流した形です。
一年前には誰も予想しなかった郊外居住ー遠隔勤務モデルが出現しました。さらに遠隔もやめて居住地の近くで仕事を始める人も現れています。
家で仕事、家で作業、家から会議…はもはや普通のことになりました。テレワークのための環境整備にはいくつかのポイントがあります。作業デスクだけでなく会議の時に生活感が溢れないよう背景に工夫が必要だったり、生活音やテレビの音が入らないように気を使ったり。
そうなるとゴロゴロするようなスペースからちょっと離れて仕事できる場所が欲しくなります。
さらに家で過ごす時間が長くなるのに伴い、趣味のスペースを拡張したり、いっそのこと家に事務所機能を持たせたり、小さいお店や教室を開いたりする人も増えてきました。
仕事から帰って寝るだけの閉じた箱だった住宅が、一気に多様な場所になってきたと感じます。
それに伴い、家に「土間」が欲しいという要望が確実に増えています。
実はこのような現象が起こる前から広い土間が欲しいという要望が目立つようになっていました。少し前までは単純に玄関の土足スペースを広げたい、庭とつなげたい、という程度だった土間の利用法が、ここ最近は
・子どもが遊べる
・友人に気軽に立ち寄ってもらうオープンリビング
・教室にして教室でない時間帯はリビングとつなげて使う
・キャンプ用品を気兼ねなく広げる
・趣味の自転車や木工のスペース
・観葉植物を育てていてゆくゆくは土間部分をお店にする計画
etc…
一気に使い方が多様になり、一口に土間といっても内容は千差万別になっています。
しかしなるほど、使い方を見ると確かに「予備室」ではなく土間が欲しい。
土間の役割は個室では代えられないのです。
生活空間の延長でもあり外部空間の延長でもあるような、そんな場所=中間領域が家に必要とされはじめている、と思います。
そこで、土間と合わせて提案するのが、広めの軒下と縁側です。
土間=内部空間だが外部的な使い方ができる場所
軒下=外部空間だが内部的な使い方ができる場所
縁側=生活空間と土間をつないだり、土間と軒下をつないだりする「つなぎ」のためのしつらえ
(一般的には外に張り出した床ですが、ここでは必ずしも外とは限りません。)
どれも40年前位までの日本の家屋にはごく普通にあったものです。生活空間と外部をつなぐ中間領域が昔の家屋には備わっていました。
中間領域をつくる三要素を住宅の基本として捉え直したものが「土間・軒・縁側の基本住居」です。
1970年代以降、大家族が解体され核家族化がほぼ行き渡ると共に過密化した住宅事情。それと並行して寝る場所兼家財道具置き場という形でシングルタスク化してきた住居そのもの。
時代の流れの中で住宅における中間領域は必要とされなくなったかに見えましたが、ここへ来て再度、住宅が多様な/複数のアクティビティの拠点として生まれ変わろうとしていると感じます。
とはいえ、限られた面積に目一杯住まざるを得ない住宅事情は変わらない。
「基本住居」は、今の限られた住環境の中でも、こうした中間領域を重ね合わせでうまく形成していく試みです。