保育園の小さな増築です。園舎と擁壁に囲まれたデッドエンドを小さな建築を建てることでハブに変えました。
場を反転するマイクロアーキテクチャ
名古屋市内の保育園の小さな増築計画である。
シュタイナー教育で有名な園で、既存園舎は90年代初頭に建築家笠嶋淑恵氏により全面改修が行われている。
長年の運営の中で保育形態も変化し保育室が増えて、築40年を迎える既存園舎内には現在職員室がないという。そこで職員の執務スペースと面談室など多目的に使える小空間を作りたいということであった。
敷地内のどこにつくるか、というところから検討を始めることとなった。
既存園舎はRC二階建、北垂れの斜面地を受け止める道路際に構えている。園舎に向かって傾斜する斜面は2段擁壁を構える急斜面で、園舎の前に幅4mの「園庭」を残すのみ。その総高さは7mを超える。
園舎は全体的に手狭になっており、かといってまとまった平場のない敷地のため、1段目の擁壁の上には木造の事務棟、2段目の擁壁の上には職員休憩用の小屋が別棟で建てられていた。
擁壁との関係で、園舎の体験は1階と2階では見える風景も環境も全く異なっていた。
1階の園庭は擁壁と建物に囲まれることで、室内的な場所になっている。
2階に上がると環境は一転し、空が開け外廊下越しの眼前に雑木林の斜面が広がる。
ほぼ平場のない敷地の中で、最終的に園舎と擁壁に囲まれたデッドエンド、一番奥の滝壺のような場所に増築を行うことにした。そこには先代の理事長先生が使っていた小屋が、今はあまり使われないまま残っていた。この小屋も特徴的な意匠の建物であったので、使えそうなものはなるべく再利用する計画とした。

まずは擁壁と既存園舎との間を取り持つ新たな面をかける。その上部に初めて外形を持った小屋を建てる。
新たな面をかけることで、擁壁で寸断された園舎を擁壁がつなぐ園舎に変えるのである。
地上レベルは建物の外形を作らず、擁壁と園舎外壁に囲まれた場所をそのまま内部空間にして既存園舎と一体化した。ここから擁壁の上に建つ木造の事務棟を階段でつなげ、園庭に対しても開いた。この場所を介して園舎、園庭、事務棟、斜面がつながり、行き止まりが一転、ハブ空間に裏返った。
さらに新たな屋根面で軒を作って回し、その軒下で擁壁と既存建物のサッシ面を新たな開口部で縫い合わせて、来園者を受け止める新たな顔を作っている。
上に建つ小屋は面談室・休憩室・静寂室と多目的に使える小空間となっている。
小屋を経由して斜面地の上方に繋げたことで、園全体の動線に一気に立体的なつながりが生まれた。
新たに張った面には積極的に曲線を用いているが、これは既存園舎の特徴的な意匠との間に連続性を持たせたものである。また既存の小屋に使われていた窓枠や建具等も随所に用いた。
建物の成り立ちの順序をひっくり返す、行き止まりはハブに裏返る。
寸断されていた動線がつながり、擁壁を介して立体的な行き来が生まれた。
これは反転によって1000平米超の敷地全体を編集しなおす10坪余りの極小建築である。
作品名:やまさと保育園増築棟
構造設計:永井拓生(Eureka)
主要用途:保育所
工事種別:増築・改修
設計期間:2019.6〜2020.8
工事期間:2020.8〜2021.3
所在地:愛知県
規模:地上2階/約35㎡
施工:箱屋 松本繁雄
写真撮影:Tololo Studio