築50年の古家を改修した小さなテイクアウトカレーショップ。 お店はこちら→カレー 八O吉
時間の層をデザインする
名古屋市内の住宅地にあるテイクアウト専門のカレー店である。
立地はいわゆる繁華街ではないが、イートインスペースを持たない店舗としては、来店者の自宅への動線上に立地していることや近くに公園があることなどの方が、繁華街に立地していることよりも意味があるようだ。
発信も注文もインスタグラムをメインにしている。店舗空間がない分、テイクアウトの食の体験は店舗に留まらず、家や公園で食べる時間だけでもなく、店と食事、点と点の間に薄く広がっているが、この薄い広がりを担保するためにSNSが非常に重要な役割を担っている。
従来型のテイクアウト(弁当やピザ)と大きく違うところは、サービスはないものの印象的な店舗空間を持ち、SNS を用いて実際の店舗でない場所に店舗の空間を漂わせることで、メニューに付加価値を与えている点ではないかと思う。俗にいうインスタ映えである。
店舗でない場所に店の空間を漂わせるにはどうしたら良いか。インスタ映えを写真の魅力、という点から捉えてみる。一瞬を切り取る写真の中に分厚い時間が凝縮されていることが写真の面白さならば、インスタ映えの深層とは、そこに時間の存在が感じられることなのではないかと考えた。
そこで、二つの時間をデザインしようと考えた。
一つは街と店との間に横たわる長い長い時間のデザイン、もう一つは人と店との間現れては消える十分足らずの時間のデザインである。
店舗は築50年超の2件長屋の片方を改修している。
街と店との間の時間のデザインとしては、街路にずっと見せていた古い寸法体系の上に新しい寸法体系のレイヤーを重ね、その重なりが見えるように処理している。2軒長屋の片割れである既存家屋の正面に付いていた窓や壁の形跡をあえて残し、その上に意図的にオーバーサイズの建具を重ねている。新しい店にも古い家にも見える、両義的なファサードとした。
人と店の間の数分の時間のデザインとしては、ファサードだった面がカウンターとして内部にL字に回り込んで店の空間を形成する仕掛けとしている。数名が入れる程度/滞在時間数分の小さな店内だが、外部と連続していることで、もっと長い時間店舗の空間に触れていたような感覚になるといいのでは、と考えた。
そのためにカウンターを分節しないことが重要で、L字カウンターの角に柱や方立などの建築要素がない状態をつくるために納まり上の工夫をしている。
作品名:カレースパイス 八O吉
主要用途:店舗(飲食・テイクアウト)
工事種別:改修
設計期間:2020.9〜2020.11
工事期間:2020.12〜2021.1
所在地:愛知県名古屋市千種区(名古屋市営地下鉄 自由が丘駅前)
規模:地上2階/約60㎡
施工:株式会社ドットニュース
写真撮影:吉村真基建築計画事務所|MYAO